アメリカ永住権を求める人間ドラマ

アメリカとメキシコ国境 その2

フェンスの建設

下院軍事委員会の議長でもある、下院議員ダンカン・ハンター(共和党・カリフォルニア州)は、2005年11月3日に、強化されたフェンス(事実上の壁)をアメリカ=メキシコ国境沿いに構築することを提案しました。12月5日には、合衆国下院法案4437への修正案を提出しました。

この計画には、メキシコ境界の698マイル(1,123km)に沿ったフェンスの建設の義務化が盛り込まれています。2006年5月17日に、上院では、三重構造のフェンスと自動車用フェンスを370マイル作るというアメリカ合衆国上院法案2611 が承認されました。

この法案の承認に対して、メキシコ政府は多くのラテンアメリカ諸国の大臣・知識人と同じ様に、この計画を非難しました。テキサス州知事のリック・ペリーも、国境はもっと開かれたものであるべきだとする反対意見を表明しました。フェンスの拡大案はさらに、テキサス州ラレド市議会で満場一致で否決されました。

「2006年安全フェンス法」(H.R.6061)は、2006年9月13日に導入されて、その翌日、283対138の投票で可決されました。9月29日には80対19の投票によって上院が認可することになり、10月26日にブッシュ大統領が署名しました。

フェンスを巡る議論

アメリカ合衆国=メキシコ国境に設置されたフェンスによって、国境を横切る不法入国を防ぐことが期待されています。しかし何人かの専門家からは、フェンスは、単に国境は常に「安全である」ことをアメリカ合衆国市民に確信させることとを目的としている広報策略でしかないと言われています。そしてその一方で、国境を渡った安い労働力の再入国をすることを難しくさせて、安い労働力から得られる経済的なメリットも目論まれていると主張しています。

メキシコでは、この障壁は非公式に『恥の壁』と呼んでいます。

ケーブルテレビ局コメディ・セントラルの番組、【The Colbert Report】の中でベイ・ブキャナンは、三重フェンスの2000マイルの壁を建設するのには6か月かかり、だいたいの金額がおよそ15~30億ドルコストがかかると試算しました。この番組でブキャナンは、1990年代のクリントン政権による国境の警備プログラム、Operation Gatekeeperでは、不法移住を90%カットしたことを引き合いに出して、これと似た結果が期待できるとしています。

ダグラス・マセイ博士と他の専門家によると、このような不法移住への取り組みは、ただ不法移住者の砂漠地帯の国境横断を促すだけで、死亡率は増加しするだけで、その上警備の法律は移民のメキシコへの再入国も防止することになるとしています。その代わりに、彼らはアメリカにより長く留まることになって、いずれは家族も連れてくるだろうと指摘しています。

CNNの世論調査によると、ほとんどのアメリカ人は、「700マイルのフェンスよりも、より多くの国境監視員を導入すべきだ」という考えであることが示されています。。

死亡者

2003年10月~2004年4月末までに、660,390人がアメリカ合衆国国境警備隊によって拘留されました。そして同時期には43~61名が、ソノラ砂漠から密入国しようとして亡くなっています。これは前年の同時期の3倍にのぼる死亡者数になっています。2004年10月には、過去1年間で325人が死亡したことが国境巡視隊によって発表されました。1998年と2004年の間では、1,954人が国境沿いで死んだことが正式に報告されています。

メキシコ外務省では、1994年から2000年までの期間に、国境のメキシコ側での死亡者数のデータを収集しています。メキシコ外務省でのデータは、1996年に87名、1997年に149名、1998年に329名、1999年に358名、2000年に499名という死亡者数を示しています。

不法入国を試みる者の死亡の原因はいろいろあります。国境のフェンスを避けて、不法移民はアリゾナ州のソノラ砂漠かバボキバリ山を渡ろうとします。そのことで死因には、熱射病、脱水症状、低体温症がよく認めらています。運河や、リオグランデ川を渡ろうとして溺れ死ぬ人達もいます。また、かなりの数の不法移民が、自動車事故や他の事故で亡くなっています。

たびたび起こる国境警備隊による殺害や、自警団ミニットマンによる殺害は、しばしばヘイトクライムとして報道されています。人権団体、連邦捜査局、国際連合がこれらの事件の調査に乗り出したケースも実際にあります。

「コヨーテ」という悪名高い不法移民の密輸業者の集団が起こす、過度の暴力による死亡もこっそりと報告されています。本国メキシコに残された家族に危害が加えられる恐れがあるため、コヨーテによる被害についての証言は少なくなっていて、「コヨーテ」の中にいる容疑者を識別することは難しいのが現状です。

アメリカ国境警備隊

経済的に富裕のカナダ境界に比べて、メキシコ境界の方が密入国や密輸が多発しているので、越境警戒業務はかなりの激務となっています。

1994年の時点では4,139名の隊員が所属していましたが、一般的な離職率は5%という数字でしたが大規模な人員増加を行っていた1995から2002年までは離職率が10%を越えた年もありました。アメリカ同時多発テロ事件が発生した2001年は連邦航空保安局に転属する隊員が続出したために、離職率が18%にも達してしまいましたが、それ以降は給料を増やしたりしたこともあって離職率は低下してきました。2009年の時点では6~7%のラインの離職率で落ち着いています。

アメリカの国境警備隊は、前述のジョージ・W・ブッシュ大統領(2001~2009)の指揮の時に大規模な組織拡充を行いました。当初の計画では2010年には2万人規模の組織になる予定でした。メキシコからの不法移民や麻薬の流入がその後も止まらなかったことを受けて、2005年の7月にはさらに500名追加しました。そして同年2005年10月にはさらに1000名を追加する法案に署名しているので、2005年の11月には2007年度に更に1500名追加する予算案を提出しました。これらの拡充の結果、アメリカ国境警備隊はアメリカ連邦政府所属の法執行機関としては最大規模の組織になると予想されています。

現在アメリカの国境警備隊に所属している2万人前後の隊員のうち、大半はメキシコ国境に配属されています。カナダ国境では、問題が少ない事もあるので配置されている人数が少なく、2001年にはわずか324名の隊員しか配置されていなかった事が明らかになっています。

これは順次拡大されており2009年には1845名にまで拡充されていますが、国境警備隊の主な任務がメキシコ国境の警備と言う事実は動かしにくいので、国境警備隊の情報サイトでも新規入隊者はまず南西部国境(メキシコ国境)に配属される事とスペイン語の履修が不可欠である事が明言されています。

またアメリカの国境警備隊は連邦政府所属の法執行機関では一番殉職者が多い組織になっているのもまた事実で、1924年から数えて114名の隊員が殉職しています。